砂場

これは、ただの砂場です。

動画

友人から送られてきた動画には、ふたりの男が映っていた。メガネの方は私も知っている男で、もうひとりはいわゆる「流し」のようである。アコースティックギターを胸に抱えている。

居酒屋の座敷である。店内はがやがやと酔っ払いの声で騒がしい。男らは声を合わせ、目を瞑り、「オリジナル・ラブ」を気持ち良さそうに歌っていた。

むかし付き合っていた相手から浮気をされ、婚約破棄をしたという男だ。以来卑屈なことばかり言う人だった。女という性別のことを悪く言いながら、好意に甘えるふしがある。独身だから好きにすればいいと思っていたが、友人のほうがこの男のことでいっぱいだった。

彼はあんまりいい人ではないよ、と言ったがそんな言葉で関係をやめられるならとっくにやめているだろう。

すこし呆れて遠巻きから眺めていたのだが、その送られてきた動画で、心底好きで、もうどうしようもないんだろうなあと分かった。カメラの手前にいる彼女は、オリジナル・ラブなんか聴かない。知らないはずだが、楽しそうに笑っている。

結局、男が部屋に女を連れ込んだと言って彼女が耐えられなくなった。というより、そもそも付き合っているつもりは男にはなかったようであった。彼女は男をうらんでいた。あの動画の短い時間だけがただ残るのだと思った。